「製造してから時間が経ったタイヤは使用していなくても性能が低下しているので買わない方が良い」こんな話を聞いたことがありますか?ナビゲーターは職業柄よく耳にします。そこで製造からの保管期間と性能低下の関係について白黒ハッキリさせましょう。
本当に低下するのか?
結論から言います「しません」
より科学的に言えば、「ゼロではないが無視できるレベル」が正しいでしょうか。
まず事実として、業界最大手のブリヂストンが「適正保管されていれば、少なくとも3年はほとんど性能変化がない」という検証実験の結果を公表しています。
ブリヂストン:適正保管タイヤは、3年間同等の性能を保つ
一方で保管期間中に性能低下する試験結果は公表されていますでしょうか?ナビゲーターは見たことありません。
使用に際して過酷な環境にさらされるタイヤのゴムは化学的に安定な物質であり、簡単に自然に変質していくものではありません。もし置いてあるだけで簡単に劣化するような不安定な物質であれば、1トンを超える車に押しつぶされて変形を繰り返し、高速走行し、真夏に走行して触れば火傷するほどの温度になるのに、性能を長期に保っていられるわけがないのです。つまり、適正管理された倉庫に置いてあるだけで劣化して性能低下するなどというのは考えにくいのです。
更に言うならば、長年タイヤに関わる仕事をしていますが、お客様などから保管期間が長かった未使用タイヤを使用したら滑ったなんていう話も耳にしたことがありませんし、そのような統計データも見たことがありません。冷静に見れば車に装着され、高温になったり激しく変形したりし始めた時点から徐々に劣化が始まると考えるのが妥当ですし、各メーカーの見解も同様です。
つまり科学的根拠や統計的データもないが、なんとなくそれっぽいという感覚的な話が、如何にも真実のように流布されてしまっているようなのです。
大手タイヤ販売店から始まった
では、なぜこのような話が発生し、広まってしまったのでしょう?ナビゲーターの聞いた話ではこんな経緯があったようです。
メーカー系タイヤショップは扱える商品が概ね自社ブランドに限られる上に安売りが難しい。価格をコントロールしたい本部からの締め付けが厳しいためです。そうなると何かしら「付加価値をつけるしかない」。
そこで生み出されたのが「新鮮タイヤ」という売り文句です。付加価値として製造から時間あまりが経っていないことを売りにしたのです。なるほど化学的根拠もデータもないが、なんとなくそうかなと思ってしまうような話。
そんな話がなんとか売り上げを上げなければと、熟慮せず使われるようになってしまったこと、その企業が大手だったこと、加えてネット社会になって急激に拡散してしまったこと。これらによって根拠なく本来品質に問題がない製品に悪評が付いてしまったのです。
繰り返しますが保管期間中に劣化する試験結果をナビゲーターは知りません。
価格で勝負するのが難しいメーカー系大手タイヤショップによる販売の為の苦肉の策が、火のない所に煙を立ててしまったのです。
皮肉なことだ
定かではありませんが、「新鮮タイヤ」を最初にうたったのは他でもないブリヂストン系タイヤショップのタイヤ館だそうです。だとすれば、ブリヂストン本体が直系ショップに過度な安売りを禁止した結果、新しいタイヤを欲するユーザーが増えたということになります。タイヤ館以外の販売店からは要求や苦情、ユーザーからは問い合わせなどが増加しブリヂストン本体は「少なくとも3年は問題ない」と実験まで行って火消しを行ったことになります。これが本当ならば、皮肉な結果ですね。
欧州メーカーは取り合わない
製造年週が新しいものを要求したり、古いものが入荷したので新しいものに交換を要求しても、コンチネンタルやピレリなど名門欧州メーカーは取り合ってくれません。唯一得意先にのみ対応しているのは日本市場にある程度理解のあるミシュランくらいです。(ノーチェックで出荷させるより僅かばかり高い仕入れになりますけど。)
なぜ名門メーカーでも対応しないのか?
彼らの言い分はこうです。
性能に変化がないのにどうしてそんなことをしなければならないのか?理屈でなく気持ちの問題だろう?合理的じゃない。そんなことをしたら古いものが残って新しいものから出荷され、結果として破棄しなければならないタイヤが増える。確認するための手間も管理するための手間もかかる。その手間も当然タダではないのだ。
といった具合です。
しかも、そんなことをしたらこれらのコストは誰が吸収するのか?勿論購入するユーザーです。不条理に思うならズレているのは半分あなたです。不合理で過剰な要求をしているのはユーザーです。ならば、その要求に応えるためにかかったコストをユーザーが払うのは当然です。半分というのは問題はそんなことを気にしない人も割を食うことです。
日本人はタダであることに慣れ過ぎています。しかし大抵は見かけ上のタダであって、その分のコストはちゃんと乗せられている。しかも知らないうちにあなたが払っています。実は合理的でない要求をする一部のユーザーのせいで、それに応えているメーカーの製品は余計に高く売られているのです。本来からすれば、そういった要求をするユーザーから手数料をとって販売するのが、それ以外の人にも幸せな道なのですけれど…
少し簡単な化学の話をしましょう
出来るだけ簡単に話します。
よく劣化と言っているのはいったい何なのでしょう?
➀ゴムとオゾンや酸素などが反応して、化学的に別の物質や状態に変化している
※ゴム分子は加硫による架橋で柔軟性を獲得していますが酸化により、この架橋が切れると柔軟性を失います。
➁均一に分散されたゴムから油が抜けるなど大きな構造が変化している
概ね考えられるこの2つのことについて考察してみましょう。
➀化学変化
ゴムは安定した物質です。故に何年も過酷な環境下に置かれながら車を走らせ、止め、支え、曲げてくれます。しかし、長年外部からの熱などのエネルギーと酸素などが加われば化学構造が変化して柔軟性や弾性を失っていきます。安定した物質であるゴムが化学変化をしようとするとき、外部からのエネルギーはそれなりに大きなものでなければなりません。その一番の悪者であるエネルギーは「熱」だと言われています。よく最も悪者扱いされる「紫外線」も問題ですが、走行時などに加わる熱エネルギーに比べれば影響は小さく、直射日光を避けてあげれば簡単に大気中の酸素と反応していくことはありません。
但し、オゾンは非常に反応性の高い物質です。オゾンは僅かなエネルギーでもゴムをボロボロにするので気を付ける必要がありますが、反応性が高い物質は不安定です。故に普通の環境ではほぼゼロ、無視できるレベルしか存在していません。
つまり管理倉庫保管なら大幅な性能低下は考えにくいということになります。
➁構造変化
製造されたタイヤの素材はゴムや油などが均一に分散されています。しかし熱や変形などで硬化防止剤や油が浸み出したり、均一性が失われ性能が低下します。この変化もそれなりに大きなエネルギーを必要とするので、高温になることがない保管時にはほぼ進行しませんが、使用開始してからは高温になるため進行します。やはり使用を開始してから進行すると言って差し支えないのです。
つまりいつかは劣化するけれど保管されている状態なら、無視できるほどゆっくり進み、使用が始まると無視できないほど劣化が早くなるというわけです。
完全と言えないのも事実である
多くの有名メーカーでは未使用でも製造から3年経ったタイヤは出荷しないのが一般的です。これは強く徹底されていて、内部の者の不正でもない限り、都市伝説のように裏ルートで市場に出回るようなことはありません。チップにされて燃料になる未来が待っています。有名企業のコンプライアンスは厳しいのです。(但し経過2~3年ほどで安く売られるケースはあるようです。)
さてこれを読んだ皆さんの疑問はもっともです。もし適正保管されていれば性能低下しないならば、5年経とうが10年経とうが出荷すれば良い、なぜ廃棄するんだ?
あなたのおっしゃる通りです。性能低下は「ゼロ」ではない。
故にどこかで線を引いて廃棄する必要があるのです。その線が多くのメーカーで3年で出荷停止、廃棄なのです。保管期間3年というのは全く問題ないレベルですが、使用される期間を加味しての対応と考えられます。
カスタマーセンターに確認してみた
ブリヂストンとダンロップに確認してみましたが、ともに同様の回答でした。
ナ:ナビゲーター、カ:カスタマーセンター
- ナ:
- 管理倉庫に保管されている未使用タイヤが3年は性能低下しないというのは本当ですか?
- カ:
- はい。実験結果によってほぼ変化はないことが確認されています。
- ナ:
- 3年経過したタイヤは出荷しないと聞きますが?
- カ:
- はい。出荷停止し、廃棄処分され、燃料用などに使われます。
- ナ:
- なぜ3年なのですか?
- カ:
- 3年を超えるとわずかですが性能低下していきますので、出荷してから使われる時間も考え3年としています。
- ナ:
- なるほど食品と違って直ぐに消費されるわけではないですものね。
- ナ:
- 製造後すぐと3年保管した場合で使用開始の初期性能が変わらないのは分かりました。劣化の速度に差はでないでしょうか?
- カ:
- それは確認できていませんが大きな差はないと考えています。
- カ:
- なるほど分かりました。色々と有難う御座いました。
まとめ
白黒つけようじゃないかと言っておいて無責任ですが完全とはいえない結論です。
タイヤは保管期間に性能が低下するか?について当サイトの結論は限りなく白に近いグレーです。
「少なくとも3年以内に製造され、管理倉庫で保管されていたタイヤについては性能低下はほぼ無視できるレベルであって、問題ない」
古いものを買いたくない心理は理解できるのでナビゲーターもお店では出来る限り新しいものを提供しますし、当サイトの販売リンクも配慮したお店選びをしています。
わざわざ古いものを選択する必要はありません。しかしまた神経質になる必要もありません。
結論:少なくとも製造から3年以内の未使用タイヤは安心して購入及び使用して問題ありません。
理屈はおいといて「気になる」(大事なこと)ならば購入を避けるのが良いと思います。
興味深い内容ですね。
しかしながら、自動車向け一般タイヤなら、タイヤの性能の限界近くを使う事は先ず無いでしょうから、
保管時による性能劣化などは気にするレベルの物ではない事は言うまでも無いと思います。
しかし、タイヤの特徴としてハイグリップを謳っている商品についてはどうでしょうか?
ブルジストンさんの性能テストも乗用車でブレーキ時の制動距離しか表記されていません。
レースをする訳ではないですし、スポーツ走行時に限界走行するのは如何なものかと思いますが、
そこでの性能差がほんの少しでもあるのであれば、同じ価格で買いたくないのが消費者の心理です。
勿論、そこまでの性能を使わないので問題ないです。という消費者もいますが、
製造年を気にする消費者はハイグリップ系の性能を重視したタイヤを選択される方が多いはずです。
乗用車はまだそれでも良いですが、バイクタイヤはそうはいきません。
何故なら、タイヤのグリップ力が全てだからです。
ほんの少しのグリップ性能に影響が出る場合、車体を傾けてカーブを曲がるバイクにとっては、
非常に大きなリスクになります。
全ての商品に対し、数年の劣化について調査するのは非常に時間とコストがかかります。
一般向けのタイヤと高性能タイヤでその性能差が本当に同じなのか実験データを私は見た事はないですが、高性能タイヤでその証明を実施しないと意味はないのかもしれません。
まあ、一般人私が何を言っても仕方のない事でしょうが、高性能タイヤと一般的なタイヤ、ましてや
自動車とバイクでは求める性能も違うでしょうからメーカーとしても大変なのでしょうけど、
一番の問題は3年の性能差が無い事よりも、何故3年前のタイヤが購入時に来るかではないでしょうか?
製造計画、在庫管理がなっていないのではないのか?、また、メーカーで厳密に管理されたものなのか
流通の過程で適当に管理されたものなのか消費者には分かりません。
であれば、製造年の新しいものはそういった不安要素が少しでも避けられ、安心して使用できるという心理に働くのではないでしょうか?
そもそもは、製造年からどれだけ経った事の問題よりも、何故、3年前のタイヤが来るのか?を疑問視しているのではないでしょうか?
まあ、流通の関係で半年から1年は製造年がズレても仕方ないのでしょうが、これも海外製品ならです。
今の国内での製造に関して1年も遅れているのは少々生産計画や在庫管理に問題があるのかもしれませんね。コロナの様な特別な理由があれば別ですが。
自転車のタイヤですが、ツールドフランス最多優勝のランスアームストロングは、5年以上寝かせたタイヤしか履きませんでした。新しいタイヤはゴムが落ち着いていない、エイジングさせないとゴムの本当の性能が出ないからだそうです。
ランス自身は、その後ドーピングを告白していますが、競技者としてはともかく自転車乗りとして1流であったことは間違いないでしょうし、自動車にくらべよりダイレクトに性能を感じる自転車でそのような意見があるのは一考に値すると思います。
もちろん、エイジングしてないタイヤを使う自転車競技者の方が多いのですが。